FOX BROTHERS FOR MARGARET HOWELL

「英国フランネルの代名詞」と言われ、高いクオリティと伝統を誇る老舗フォックスブラザーズ。マーガレット・ハウエルにとっては、大切なサプライヤーの一つであり、毎シーズン、フォックスブラザーズ社製の生地を使ったアイテムを作っているほど。両者の関係はマーガレットがブランドをはじめた頃から長く続いている。

フォックスブラザーズのファクトリーがあるのは、イングランドの南西部ウェリントン・サマセット。閑静な住宅街の一角に佇むファクトリーは、英国らしい風情あるレンガ造りの建物が目を引く。通りを隔てた向こう側にはすでに廃墟となったファクトリーや跡地が見える。かつて繁栄を極めた際には、この一帯はフォックスブラザーズの工場が立ち並んでいたという。

「一番多いときでは5000人ほどを抱える巨大な企業だったんです」。そう話すのは、ヘッドデザイナーのローズマリー・ブーン。21世紀に入ると、一時は経営低迷に陥ったこともあったが、2009年にマネージメントディレクターに就任したダグラス・コードーによって、盛り返すことに成功する。伝統を守りながらも現代的なアプローチが功を奏し、現在はさまざまなビジネスを展開している。

ローズマリーがファクトリーを案内してくれる。場内へ一歩足を踏み入れると、話し声がかき消されるほど大きな織機の音が響き渡っていた。織機を担当しているのは10数名ほどのスタッフ。一部の機械はプログラミングで動くが、常に目を配り微妙な糸調整をしている姿が見られる。その他にもデザインや検品などの担当者がおり、年齢層も幅広い。聞けば80代の女性もパートタイムで働いているという。

「それぞれが特殊な技能なため、スタッフは誇りを持って働いています。クオリティを維持するのは、厳選された原材料と、織り方、職人の技術にかかっています」。ここでは、クオリティを保つことを最優先に一つ一つの工程が大切にされ、品質管理が徹底されている。長い歴史の中で機械が進化し、さまざまな分野で効率化が図られたが、それでも機械を動かすのは人の手であり、クオリティを判断するのは人の目である。

「まだまだ人間でしかできないことがたくさんあるのです。私たちは、品質を守りながら、時代に応じて進化を続けなければなりません」とローズマリー。連綿と受け継がれてきた技術と磨き抜かれた感性を継続させることこそが、世界から支持されるものづくりに繋がっている。そんなことがフォックスブラザーズのファクトリーから垣間見えた。

「フォックスブラザーズは200年以上、同じ生地を同じクオリティーで一切の妥協なしで作り続けています。使用している原料や生産プロセスも全く同じです。マーガレット・ハウエルとの仕事は特別で、単なるサプライヤーとその顧客ではなく、ものづくりに関して詳細にこだわるところなど、同じ価値観を分かち合う、深いところで繋がった独自のパートナーシップです。私たちが作ろうとしているのは単なる『服』ではなく、特別な『体験』なのです」とマネージメントディレクターのダグラス・コードーは言う。

「私が初めてフォックスブラザーズ社のことを知ったのは、ロンドンのドーチェスターホテルで開催されていた英国毛織物合同展示会を訪ねた時です。1970年代の終わりで、私が服作りを始めて間もないころです。ブースに老紳士がひとりで座っていました。それがデヴィッド・フォックス氏で、若い女性が彼の生地に興味を示していることに驚いている様子でした。でもその時、私は彼が着ていたピンストライプのスーツと生地見本を見て、この会社こそ私の探し求めているものだと直感したのです。フォックスブラザーズ社との付き合いはそれ以来になります」

「彼らは長年受け継いできた英国企業としてのノウハウに常に忠実で、200年以上前に創立された場所に今もなお留まり、ベストクオリティのウーステッドやフランネルのスーツ生地を作り続けています。これこそ私がリスペクトする信念なのです」

 ─ マーガレット・ハウエル

CAMERA : NORIO KIDERA
EDITING : hironori+itabashi
WRITER : CHIZURU ATSUTA